研究概要 |
前年度は、「ラットの海馬神経細胞ではグルタミン酸(glu)により核内のDNA断片化(核内顆粒の出現)が起こる時間内に、細胞内カルシウムの上昇とミトコンドリア(Mit)膜電位障害が起こっているが、Mit呼吸鎖の抑制による腹電位の障害だけでは、核内の急性変化は起こらない」ことが判った。さらに今年度はラットの培養海馬神経細胞を用いた実験で以下の知見を得た。 1)Mit呼吸鎖の抑制剤としてrotenone(complex I inhibitor),3-nitropropionis acid (succinate dehydrogenase inhibitor),KCN (complex IV inhibitor),FCCP (mitochondria uncoupler)を用いビデオ強化型微分干渉顕微鏡で観察すると、KCN以外は容量依存的に核内顆粒の出現をみた。KCNや非毒性(低容量)の呼吸鎖抑制剤でもrhodamine123で評価したMit膜電位は変化していた。 2)リアルタイム共焦点レーザー顕微鏡と微分干渉顕微鏡を一体化させ、同一細胞の形態変化と細胞内カルシウム濃度の変化を観察できるシステムを構築。gluとMit呼吸鎖抑制剤を投与し観察した。いずれも核内のカルシウム濃度の急激な上昇に引き続いて核内顆粒が出現し、逆の場合は形態変化を見なかった。 3)核内濃度を変化させるカルシウムの由来を知るため、カルシウムを含まない人工髄液で(2)と同様の実験を行った。Mit呼吸鎖抑制剤では、細胞外液中のカルシウム濃度は核内カルシウムの上昇と核内顆粒出現のプロセスには影響しなかった。これに対してgluでは、NMDAレセプター拮抗剤(MK-801)の投与と細胞外液中のカルシウム濃度は、核内カルシウムの上昇と核内顆粒出現を有意に遅延させた。 以上まとめるとgluとMit呼吸鎖の抑制剤は、その神経毒性を発揮する過程で核内カルシウムの急激な上昇がおこりDNA断片化を起こすことが観察できた。Mit呼吸抑制剤は細胞内貯蔵から、gluは細胞内外からの動員で核内カルシウムを上昇させると考えられる。Gluは細胞内外からカルシウムを動員しMit障害を起こさせ、さらに細胞内カルシウムを動員し核内のカルシウムが上昇させるに至って核DNAに変化をもたらすと考えられる。
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