腫瘍浸潤は腫瘍細胞と宿主組織間の相互作用の結果成立する生物学的事象であり、純粋なin vitroの実験系のみではグリオーマ細胞の浸潤特性を明らかにするには限界がある。そこで今回、brain sliceを用いたグリオーマ浸潤モデルを新規に作成し、脳組織内へ浸潤したグリオーマ細胞の生物学的動態について検討を行った。 方法:生後2日の新生仔ラット脳より300μmの薄切大脳冠状切片を作成、孔径0.4μmの透明多孔膜上に乗せ、大気と培養液との境界でbrain slice cultureを行った。生細胞標識蛍光色素PKH2にて標識したT98Gグリオーマスフェロイドをbrain slice上に移植し、グリオーマ細胞の運動及び脳内浸潤動態について共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析を行った。また、matrix metalloproteinase(MMP)のグリオーマ浸潤への影響をみるため、MMPの発現ならびにMMP阻害剤による浸潤抑制効果を調べた。 結果:T98Gグリオーマ細胞は、brain slice上を広範囲に移動し、神経接着分子L1の添加は著明にグリオーマ細胞の運動性を亢進させた。一方、時間経過と共に、グリオーマ細胞は脳組織内へ浸潤し、その浸潤の程度は共焦点レーザー顕微鏡により三次元的に定量評価することが可能であった。MMPは、グリオーマスフェロイドよりも浸潤細胞にその発現が強く見られ、MMP阻害剤の添加により、グリオーマ細胞の脳内浸潤は有意に抑制された。 本研究においてbrain slice cultureを用いた浸潤モデルは、生体に近い環境下でのグリオーマ細胞の浸潤動態の定量的解析を可能にした。浸潤グリオーマ細胞はその強い遊走能により細胞移動を行っており、matrix metalloproteinase(特にMMP-2)は浸潤先端で重要な役割を演じていることが示唆された。
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