研究概要 |
脳外傷・虚血における神経細胞障害の機序において興奮性アミノ酸が重要な役割を果たすことが知られている。本研究の目的は、グルタミン酸毒性による脳損傷に対する軽度低脳温・高脳温の影響を生化学的・生理学的・組織学的および免疫組織学的側面から明らかにすることである。実験は成長雄ラットを使用して行った。ハロセンの全身麻酔下に右頭頂部に骨窓を設け、微小透析プロ―ブと脳温度測定用電極を頭頂葉皮質内に挿入した。微小透析プロ―ブに、0.5mol/lのグルタミン酸溶液を灌流することにより頭頂葉皮質に虚血性細胞傷害と酷似する興奮毒性病変が形成される。実験群として(1)正常脳温群;脳温・直腸温37℃、(2)低脳温群;脳温・直腸温32℃、(3)高脳温群:脳温・直腸温40℃、の3群を設定した。グルタミン酸の潅流から1、3、5、7日後に脳を灌流固定し、パラフィン包埋後薄切切片を作成し、脳障害の過程として病変内に出現するアストロサイト、マイクログリア、マクロファージの増殖と脳温の影響について検討した。また本モデルの脳損傷におけるアポトーシスの関与についても検討した。アストロサイト、マイクログリア、マクロファージの増殖はそれぞれに特異的なGFAP抗体、OX42抗体,ED1抗体を用いて免疫組織学的に検討し、アポトーシスについてはTunnel染色法を用いて検討した。アストロサイトの増殖は灌流後1日より7日目まで認められた。マクロファージの増殖は3日目より顕著となり、7日目には病変全体に著明な増殖が認められた。Tunnel染色で判断されるアポトーシスは3日目に顕著となった。各脳温間で著明な差は認められなかった。この結果からグルタミン酸興奮毒性に対する脳障害の過程に興味深い知見が得られたと考えている。本年度の研究目的についてはほぼ達成されたと考えられ、昨年度と本年度の結果を踏まえて次年度の研究計画を進める予定である。
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