研究概要 |
脳外傷・虚血における神経細胞障害の機序において興奮性アミノ酸が重要な役割を果たすことが知られている。本研究の目的は、グルタミン酸毒性による脳損傷に対する軽度低脳温・高脳温の影響を生化学的・生理学的・組織学的および免疫組織学的側面から明らかにすることである。実験は成長雄ラットを使用して行った。ハロセンの全身麻酔下に右頭頂部に骨窓を設け、微小透析プローブと脳温度測定用電極を頭頂葉皮質内に挿入した。微小透析プローブに、0.5mol/l(M)のグルタミン酸溶液を潅流することにより頭頂葉皮質に虚血性細胞傷害と酷似する興奮毒性病変が形成される。平成10年度の研究である組織学的検索・免疫組織学的検索、平成11年度のグリア増殖・アポトーシスの評価の継続に加え、平成12年度は一酸化窒素代謝産物たるnitrite(NO_2),nitrate(NO_3)の脳内濃度変化につき検討した。成長雄ラットを使用。気管内挿管後、全身麻酔下に尾動脈にカニュレーションの後、動物固定器に固定。右頭頂部に骨窓を設け、膜長3mmの微小透析プローブ(Carnegie Medicine)、脳温度測定用電極を頭頂葉皮質内に挿入する。実験群:(1)正常脳温群;脳温・直腸温を37℃に維持。(2)低脳温群;脳温・直腸温を32℃に維持。各目標脳温に到達後、人工髄液、0.5Mグルタミン酸溶液をそれぞれ30分間灌流する。微小透析法により回収した透析液中で一酸化窒素(NO)の代謝産物たるNO_2,NO_3濃度をグリース法により測定した。正常脳温群ではグルタミン酸灌流直後からNO代謝産物濃度の上昇を認めたが、低脳温群ではこの上昇を抑制した。ついで、NO合成酵素(NOS)の関与を検討するため、Nω-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)および7-nitroindazole(7-NI)の投与実験を行った。L-NAME、7-NI共にNO代謝産物濃度の上昇を抑制した。脳低温(低体温)の脳保護作用にはグルタミン酸過剰放出に伴うNO濃度上昇の抑制が関係することがわかった。以上、本年度の研究目標はほぼ達成されたと考えられ、さらに次年度の研究計画を進める予定である。
|