雑種成犬49頭を用い、以下の3群を作成した。生食前投与群:自家血0.8mg/kgを大槽内に注入する1時間前に生食3mlを大槽内に注入た群。Nicardipine前投与群:自家血0.8mg/kgを大槽内に注入する1時間前にNicardipine 1.0mg(3ml)を大槽内に注入した群。 Nicardipine後投与群:自家血0.8mg/kgを大槽内に注入した1時間後にNicardipine 1.0mgを大槽内に注入した群。以上の3群において、次の3項目について検討した。 1) 平滑筋細胞内Ca^<++>量 生食前投与群ではくも膜下出血後1時間で、脳底動脈平滑筋細胞の細胞内に多量の Ca^<++>depositeを認めた。一方、Nicardipine 1.0mg前投与群ではCa^<++>depositeは平滑筋細胞内に殆ど認めなかった。 2) 脳底動脈血管径 生食前投与群では7日目に元の血管径の65%、14日目に79%の血管径の狭小化を認めた。Nicardipine 1.0mg前投与群では、7日目に元の血管径の91%、14日目に92%と血管径の狭小化をほとんど認めなかったのに対し、Nicardipine 1.0mg後投与群では、7日目に元の血管径の68%、14日目に72%と生食前投与群とほぼ同等な血管径の狭小化を認めた。 3) 脳底動脈の電顕所見 生食投与群では14日目に内弾性板の屈曲、中膜平滑筋細胞の鋸歯状変化、myofilamentの融解、細胞内小器官および核の消失等myonecrosisに特徴的な所見が認められた。Nicardipine 1.0mg前投与群ではこれらの所見は極くわずかに認められるのみであった。 以上より、遅発性の血管狭窄は、攣縮極期の平滑筋細胞内へのCa^<++>の流入を主因とするものではなく、くも膜下出血後早期の平滑筋細胞内へのCa^<++>の流入が重要な役割を果たしていることを示唆している。
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