研究概要 |
神経線維腫症2型(NF2)は多発性頭蓋内良性腫瘍を伴うことを特徴とする遺伝疾患で、患者の予後は極めて悪い。その原因遺伝子(NF2遺伝子)の欠失・変異は、非NF2患者の散発性腫瘍にも高頻度で起こっており、NF2遺伝子産物merlinが細胞内で腫瘍抑制分子として重要な機能を果たしていることが示唆される。merlin分子の関わる細胞内シグナル伝達・腫瘍抑制機構を明らかにする目的で、merlin会合蛋白質の同定・相互作用、merlinの細胞内局在機構、及び結合蛋白欠損細胞におけるmerlinの動態を解析した。(1)牛脳・培養細胞可溶化物よりmerlinに特異的に結合する5種の蛋白質(p165,p145,p125,p85,p70)を検出し、p125はpoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)、p85,p70はKu-antigen p85,p70(Ku-85,70)、であることが判明した。(2)merlinはその高変異部位であるN末端側(19-339)を介してPARP,ku-85,ku-70と結合し、PARPのpoly(ADP)ribose polymerase活性を上昇させ、merlinのN末端側にpoly(ADP)ribsyl化を誘導した。(3)過剰発現merlinは、核内へ一端移行した直後、そのN末端側上の核外輸送シグナル配列(NES)を介して核外へ輸送され、細胞質内及び細胞質辺縁・突起部に局在した。又、NES依存性核外輸送阻害剤(Leptomycin B:LMB)処理によってmerlinが特異的に核に蓄積することを確認した。一方、PARP-/-MEF細胞で過剰発現したmerlinは細胞質にブロードに局在し、LMB処理によってもその局在の変化は認められなかった。(4)MEF細胞内PARPは、細胞のBleomycin処理によるDNA断片化によって活性化し、merlinに強いpoly(ADP)ribosyl化を誘導した。Bleomycin処理は同時に細胞内発現merlinを核近傍へ移行させた。一方、PARP-/-MEF細胞ではこれらのmerlinのpoly(ADP)ribosyl化、及び特異的細胞内局在変化は全く起こらなかった。以上の結果からmerlinは細胞膜-細胞質-核間をシャトルする分子であり、その高変異部位を介する各種膜・細胞質・核分子との相互作用によって細胞内局在・活性を制御しておりDNA損傷修復、細胞周期、細胞死の腫瘍抑制シグナルに関わっていることが考えられた。
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