研究概要 |
温熱療法は悪性グリオーマ治療法の一つとして有望視さ,臨床応用も試みられている.しかしその坑腫瘍機構の詳細は不明であった.我々はすでに,特定のグリオーマ細胞株(AA172)では温熱刺激によりG1期で停止し,アポトーシスが誘導されることを示した.その際にアポトーシス関連因子であるbax mRNA,bax蛋白およびp53蛋白が増加すること,また同時にcyclin dependent kinase inhibitors (CKIs)の一つであるp21の発現を伴うことを明らかにした(Fuse T et al,Biochem BIophys Res Commun.1996).これは温熱療法の理論的裏付けとして重要な意味を持つものと考えられる.一方p53がmutant typeのグリオーマ細胞株(T98G)でも温熱刺激によりアポトーシスに陥る.この細胞株ではp53の誘導なしにp21mRNAと蛋白の発現が亢進することからCKIsへのシグナル伝達にp53とは独立した経路があることを明らかにした(Fuse T et al,Neurosurgery 1998).このようにp21はグリオーマ細胞の増殖制御に関わる重要な因子であり,治療上keypointとなる遺伝子である. 今年度はグリオーマの薬物治療に研究を発展させ,p21発現へ及ぼす影響を検討した.Prostaglandin A seriesは細胞増殖抑制効果がin vitroおよびin vivoにおいて示されており,坑腫瘍剤としての効果が期待されているが,その分子生物学的な作用機序は明らかではなかった.我々はグリオーマA172細胞株を用いて,Prostaglandin A1の坑腫瘍効果を解析した.Prostaglandin A1の投与でグリオーマ細胞はG1期で停止し、細胞増殖は抑制された.これはp21の発現亢進とcyclin Eの制御という2つの異なったメカニズムにより引き起こされることを明らかにした(Tanikawa M et al,J Biol Chem 1998). 現在我々は,温熱治療とともにグリオーマ細胞へのp53およびp21遺伝子導入による坑腫瘍療法を目標に研究を進めている.
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