研究概要 |
(1)癌抑制遺伝子p16を欠損したヒト悪性脳腫瘍株細胞U87MGに、外来性にp16遺伝子を発現させると細胞増殖は抑制され、細胞周期のG0-G1期に停止することが明らかになった。さらにテロメラーゼの活性低下が観察された。(2)ヒト悪性脳腫瘍株細胞U87MGへのp16遺伝子の発現により細胞形式の変化が観察された。特に、細胞の平坦化、アクチンストレスファイバーの増加、様々な細胞外基質蛋白質に対する接着が増加した。このことは悪性化に伴うp16遺伝子の欠失と腫瘍組織の悪性化変化との間を関連づけると考えられた。(3)ヒト悪性脳腫瘍株細胞U87MGへのp16遺伝子を発現させると細胞外からの情報を細胞内に伝える分子Racの減少、その下流にあるMAPカイネースの燐酸化低下、c-fos蛋白質の発現低減に腫瘍細胞が容易に反応できるようになることを示唆すると考えられる。(4)酪酸ナトリウムは、ヒト悪性法腫瘍細胞の増殖、浸潤を抑制することが明らかになった。その一因として、酪酸ナトリウムが、癌抑制遺伝子p21の発現を増加させ、G1期に細胞周期を低下させることを明らかにした。上記の癌抑制遺伝子p16の外来性導入による遺伝子治療との併用により、細胞増殖抑制が行える可能性が示唆された。(5)Cyclin D1 form(a),(b)発現によって細胞増殖相の大きさを逆方向に調節できることを明らかにした。つまり、form(a)を高発現させると細胞増殖相の大きさは大きくなり、逆にform(b)の高発現により増殖する細胞の割合は小さく成ってくることを示した。(6)悪性脳腫瘍の腫瘍浸潤部ないしは周辺部では、Cyclin D1 form(a)の発現が増加しているという報告がある。このようなCyclin D1の発現と細胞浸潤との関係を明らかにするために、Cyclon D1 form(a)高発現細胞におけるマトリックスメタロプロイナーゼ活性を測定した。その結果、マトリックスメタロプロイナーゼ活性(MMP-2,MMP-3,MMP-9)が、Cyclin D1 form(a)高発現細胞で高くなることが明らかになった。つまりCyclin D1の発現によって、何らかの細胞内シグナルを介して、マトリックスメタロプロイナーゼ活性が増加し、そのプロテイナーゼは周辺部正常脳組織を分解し、腫瘍細胞の浸潤を促進するという可能性が示唆された。
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