研究概要 |
目的:これまでにヒト羊膜細胞は免疫学的に寛容な細胞であり、種々のLysosomal Enzymesの合成活性やカテコーアミンおよびアセチルコリンの産生能を有することも報告されている。今回、各種培養液にて培養したラットの羊膜細胞を形態学的、免疫学的などの手法により比較検討した。さらに培養羊膜細胞の脳内移植により中枢神経系における本細胞の特性と可能性を検討してみた。 方法:ラット羊膜細胞は妊娠17日のWistar ratより分離しB27-supplemented Neurobasal Medium(Neurobasal Medium/ B27,Gibco)あるいは10% FCS/ DMEM(DMEM/FCS,Gibco)の2種類の培養液によって一定期間培養した後培養羊膜細胞に関して各種検討を行った。さらに培養羊膜細胞を正常ラット脳に移植しその動態を観察した。結果:初代培養当初、ラット羊膜細胞は円形から楕円形を呈していたが一週後はNeurobasal/B27で培養すると細胞の形態は数本の長い突起にて細胞が結びつき網目状の配列をとった。同様に培養した羊膜細胞の電子顕微鏡画像では、発達した粗面小胞体とミトコンドリアなどから活発な細胞内活動が予想された。しかしシナプスなど神経細胞に特徴的な構造は観察されなかった。一方、DMEM/FCSでは細胞は突起はなく平板な細胞形態となった。免疫組織染色ではNeurobasal Medium/ B27培養ラット羊膜細胞は,MAP2などの神経細胞のマーカーに陽性となりGFAPには陰性であった。DMEM/FCSで培養した羊膜細胞はGFAP、TH、ChATおよび一部nestinに陽性となったがNFには陰性であった。またウェスタンブロットによっても同様にNeurobasal Medium/ B27で培養したものの方がDMEM/FCSで培養した細胞に比較してneurofilament,MAP2を強く発現した。GFAPに関しては逆の結果となった。さらにフローサトメトリーを用いた細胞周期解析ではNeurobasal Medium/ B27ではG1-G0期(85.58%)、G2-M期(0%)となり羊膜細胞の分裂がほぼ停止していた。同種脳内移植実験では羊膜細胞は脳内において3ヶ月以上の長期わたり生着し免疫学的にはneurofilamentを発現していた。 考察:ラット羊膜細胞は形態学的、免疫組織学的にNeurobasal Medium/ B27により神経細胞類似の細胞に変化した。また一部には神経幹細胞を含む可能性が示唆された。以上の性質を応用することにより羊膜細胞は中枢神経疾患に対する神経幹細胞移植に代わる細胞腫として、あるいは遺伝子治療でのドナー細胞となる可能性があると思われる。
|