気管切開を施行し、ハロセン及びパンクロニウムにて全身麻痺をしたRatを用いた。脳組織細胞外イオン濃度は、それぞれK^+イオンとNa^+イオン選択性レジンを充填したdouble barrelのglass micropipetteを作製し大脳半球灰白質に刺入留置し、位差動型エレクトロメーターを用いて、細胞外K^+及びNa^+イオン濃度を経時的に測定した。同時に水分子の細胞内への移動を、大脳半球灰白質に留置した脳組織インピーダンス測定用電極を用いて細胞外容積(ECS)の変化として経時的に測定した。又、脳虚血負荷後の神経細胞脱分極はDCポテンシャルメーターを用いて測定した。脳温度を37℃(常温)と33℃(軽度低脳温度)に固定した後、MgCl_2を静脈投与し心停止し全脳虚血を負荷し、上記の各パラメーターの経時的変化を測定した。その結果、常温(37.4±0.8℃)では脳虚血後32±5秒後にECSの減少(細胞腫脹)が認められた後に細胞外Na^+濃度の低下(Na^+の細胞内流入)が認められた(83±30秒)。軽度脳低温(31.9±2.5℃)は、脳虚血負荷後のECS減少、細胞外Na^+濃度低下、細胞外K^+濃度上昇までの時間を全て有意に遅延する事が確認された。従来は、虚血性細胞腫脹が細胞外Na^+が細胞内に流入する事によって生ずる浸透圧差によるisotonic movementによって細胞内へ水分子が移動する事により起ると考えられていた。しかしながら、今回の研究では神経細胞への水分子の移動(神経細胞腫脹)が、細胞内へのNa^+イオン流入以前にすでに起きている事が判明した。この事は、近年発見された細胞膜上の水チャネル(Aquaporin 4)の関与が虚血性細胞腫脹に関与する事が示唆されるとともに、軽度低脳温化には、単にイオンチャネルのみならず、水チャネルの開放も遅延させる作用がある事が判明した。今後は、水チャネルの開閉に関与すると言われているprotein Kinase Cによるチャネルの燐酸化の面から検討する事によって低脳温療法の脳保護作用増強について研究する予定である。
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