本研究は平成10年より、MRIによる組織温度計測を用いた脳腫瘍の治療を確立するべく、基礎研究を遂行してきた。平成10年度は、MRIを用いた温度計測に関する基礎実験を行い、7秒間隔で±0.88℃の誤差で、組織温度の変化を計測することが可能となった。さらに高速な撮影法を開発し、1秒毎の計測も可能とした。平成11年度は、レーザー発振装置を用いた組織に対する加温実験を行った。その結果、高エネルギーでレーザーを照射すると、組織に炭化が誘発されることが確認され、この問題を解決するために間欠的レーザー照射を可能とした発振装置を試作した。また平成11年度にかけて、diffuse projection fiber systemを試作して、その温度分布をMRIにて観察した。このdiffuse projection fiberは、組織に対して単位面積あたりのエネルギー密度を低下させることにより、組織における炭化が誘発されにくいことが判明した。さらにdiffuse projection fiberを用いることにより、円筒状の温度分布が形成され、より広い範囲で組織に対する加温が可能であることが判明した。平成12年度は、現在までに確立されたMRI温度計測法の技術を用い、これをレーザー発信装置にフィードバックするシステムを構築した。MRIのプロトン位相画像から、対象とする組織における温度上昇を、+2℃、+4℃、8℃以上の範囲で計測し、得られた情報からレーザー発振装置に制御を加えた。温度上昇を+4℃に設定した場合、+4℃上昇する範囲を10mmに設定する場合と、15mmに設定する2つの条件を与え、実験を行ったところ、いずれの条件でも±10%の範囲で、レーザー発振装置の制御が可能であった。また、制御を加える時間をより長く設定すると、単位時間あたりのレーザー出力は低下する傾向にあることが判明した。また、制御は7秒間隔で行われ、実用的なフィードバックシステムと思われた。よって、研究の最終段階である、MRI温度情報に基づいたレーザー発振装置へのフィードバックシステムの構築は、当初の目的を達したと判断された。
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