ユビキチン/プロテアソーム蛋白質分解系は、多様な生体反応を急速かつ不可逆的に触媒し、その破綻は様々な疾患の原因となる。アポトーシスにはカスパーゼを中心として多くのプロテアーゼが関与しているので、プロテアソーム阻害剤誘導アポトーシスの機序を解明を目指した。ヒトグリオーマ細胞株2種類(野生型p53蛋白発現U-87MG、変異型p53蛋白発現T98G)にプロテアソーム阻害剤であるラクタシスチン、AcLLNalを作用させ、以下を観察し得た。 1.位相差顕微鏡では細胞の半月状変形・縮小、細胞膜表面のblebbing形成、蛍光顕微鏡では核の凝縮、断片化等、アポトーシスに特徴的な変化が観察された。アガロースゲル電気泳動ではDNA断片化を認め、Ac-DEVD.fmk、z-VAD.fmkで断片化は抑制されたがAc-YVAD.cmkでは抑制されなかった。 2.U-87MG株ではp53、p21、Mdm2、p27の蛋白発現上昇を認め、T98G株ではp53、Mdm2の蛋白発現量の変化なしにp21、p27の蛋白発現上昇を認めた。一方Bcl-2ファミリー蛋白の発現量の変化はなかった。カスパーゼ-3では活性型の出現を認めたが、カスパーゼ-1では認めなかった。PARPの特異的分解はカスパーゼ-3の活性型の出現と同期したが、カスパーゼ阻害により完全に抑制された。 3.細胞死は経時的に進み、カスパーゼ阻害剤およびシクロヘキシミドにより遅延した。この細胞死抑制効果はz-VAD.fmkでより強く認めた。また、カルパイン特異的阻害剤では細胞死は誘導されなかった。 4.細胞死の過程でチトクロームCのミトコンドリアから細胞質への放出は認めず、ミトコンドリア内膜機能の低下も認めなかった。 結論として、プロテアソームの阻害によりヒトグリオーマ細胞株にアポトーシスが誘導され、p21、p27、カスパーゼ-3の活性化が関与していた。その細胞死実行シグナルはp53蛋白質の発現型、Bcl-2ファミリー、カスパーゼ-1には依存せず、ミトコンドリアを介さなかった。
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