研究課題
恒常活性型MEK遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクター(CA-MEKウィルス)をラットの切断した胸髄に注入して、脊髄および脳内での導入遺伝子発現を、MEKによってリン酸化をうけるERKの抗リン酸化抗体を用いた免疫染色で検討した。平成10年度、LacZウィルスを注入しX-gal染色で遺伝子導入範囲を検討した結果と一致して、注入した脊髄の刺入部近傍および脳内の赤核、青斑核でコントロールと比較して強い陽性像が観察された。次に、脊髄損傷後の下肢機能への導入遺伝子の効果を検討した。実験動物を、CA-MEKウィルスを注入したラット、LacZウィルスを注入したラット、ウィルスを投与しなかったラットの3群に分け21点満点のBBBスコアを用いて6週まで評価した。その結果、LacZウィルス群、切断のみの群では最後までスコアは1前後までしか得られなかったが、CA-MEK群では他の2群と比べ2週後から明らかに回復し最終時では5.8まで得られた。続いて、このCA-MEK群の下肢機能回復が上位神経核からの下行性線維の再生であるかを調べる目的で脳内神経核に順行性トレーサーであるWGA-HRPを注入する実験を行ったところ、機能回復したCA-MEKラットでは赤核にトレーサーを注入した後には切断部を越えて標識された軸索が走行することが確認された。また、頸髄刺激腰髄記録の脊髄誘発電位を記録するとコントロールでは電位は記録されないのに対して、機能回復したCA-MEKラットでは電位が記録された。これらのことからCA-MEKウィルスにより下肢機能が回復するメカニズムとして上位神経の軸索の再生が促進されたことが推測された。
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