研究課題
1.平成10年度より、我々はアデノウィルスベクターが治癒過程にある靱帯の修復組織に導入されうるのかを調べてきた。昨年度報告したとおり、アデノウィルスベクターは2週の時点で治癒過程にある靱帯の修復組織に導入されうること、それが損傷後6週までの靱帯の修復過程には有意の影響を及ぼさないことがわかった。2.従来の報告を詳細に検討したところ、現在までの報告では靱帯修復が外因性の成長因子の投与により長期にわたって明確に改善されることは期待できない可能性が高いことがわかった。一方、ヒアルロン酸については、最近この合成酵素をコードする遺伝子がクローニングされ、ヒアルロン酸の合成はこの酸素単独の作用によって可能であるとの報告がなされている。靱帯修復に関してもヒアルロン酸がその修復に有利に作用するとの報告が散見される。このことより、我々はヒアルロン酸合成酵素I型の遺伝子導入を行い、これによる靱帯修復過程の変化を検討することにした。そこで、関節内においてもアデノウィルスにより遺伝子の導入が可能か、確認の実験を行う必要がある。そこでLacZ遺伝子を組み込んだアデノウィルスを経皮的に膝関節内に注射し1週後に染色した。その結果、滑膜細胞内にLacZの染色を確認し、アデノウィルスの経皮的関節内注により遺伝子導入が可能であることを確認した。3.ヒアルロン酸合成酵素(以下HAS)遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクター(以下HASウィルス)を長寿医療研究センターの協力により提供を受け、現在HASウィルスを正常ウサギ膝関節内に注入し、ヒアルロン酸の合成促進が引き起こされているか否かを検討中である。合成促進されている場合には靱帯修復組織線維芽細胞や滑膜細胞にHASウィルスを導入し靱帯修復過程を調査する。また、TGF-βの活性型I型レセプターALK-5を発現するウィルスについても修復組織線維芽細胞に導入、検討するところである。