軟骨全層欠損部の修復過程におけるTGF-β signalingの関与についてラットモデルを用いて検討した。6週齢の雄Wister系ラットの大腿骨膝蓋面にV字状全層欠損を作製し、術後1、2、3、4、6、8週で屠殺し、欠損作成部の軟骨・軟骨下骨を一塊として採取し、組織学的、免疫組織学的検討に供した。術後1週の欠損部には紡錘型の未分化な細胞が浸潤し、その後欠損底部における骨形成の進行と共に未分化な細胞は多角形から類円形の形態を呈するようになり、術後3週では深層に軟骨基質に囲まれた軟骨細胞が出現した。以後軟骨層は上行し、術後8週では欠損部に隣接した関節軟骨の形態とほぼ同様な組織構築を回復した。抗PCNA抗体を用いた免疫染色では、術後2週から6週にかけて観察される多角形から類円形の未分化細胞および成熟軟骨細胞に強い発現を認め、これらの細胞が高い増殖能を有していることが示された。また抗TGF-β1抗体および抗TGF-βI型受容体および抗TGF-βII受容体を用いた免疫染色においても、上記の細胞ではTGF-β1、受容体ともに強い発現が共通して観察された。欠損作成後初期に浸潤する紡錘形の未分化細胞や術後6週以降に軟骨層底部に観察される肥大軟骨細胞ではTGF-β1および受容体ともに発現は著明に低下していた。以下の結果はTGF-βsingnalingが高い増殖能を有する多角形から類円形の未分化細胞および成熟軟骨細胞の機能と密接に関連することを示唆しており、今後細胞接着因子発現や軟骨基質蛋白合成の経時的推移との関連について検討していく予定である。
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