研究概要 |
保田や深田らが1956年にはじめて骨組織の圧電性を明らかにし、骨組織の形成や恒常性に電気的性質が介在していることが明らかになった。われわれは心磁図や脳磁図に今日使用されている超伝導量子干渉素子を用いて、非侵襲的に骨組織の強度および骨折治癒過程での仮骨強度の判定を確立するため、骨組織に変動磁場を負荷して発生した微小電流から骨折治癒過程での仮骨の成熟度を定量化することを目的としている。日本白色家兎の下肢を磁気シールド内に設置し、変動磁場刺激装置によりピーク磁場10,20,30ガウスの変動磁場を負荷した。負荷と反対方向で下肢の試験片から20mmの距離に設置したセンサーで発生した反応性の変動磁場の検出を試みた。128回の加算平均を試みたがノイズが大きく発生磁場が感知できなかった。その原因として、筋肉や神経組織による反応磁場の変動が骨組織のものより大きいこと、磁気シールド内ではあるが、磁性体が実験系にある程度含まれることが余儀なくされるため、その影響を受けたことなどが考えられた。そこで逆に仮骨形成を促進する交流電流を流し、仮骨自体のインピーダンス値の変化を経時的に計測し、その電流経路を解析する実験を行った。その結果、交流電気刺激が仮骨形成を促進しており、仮骨の成熟に伴ってインピーダンス値が上昇すること、実効電流は骨膜周囲の湿潤した軟部組織にも流れていることが明らかとなった。今後、非侵襲的骨組織の強度判定を確立するために克服しなければいけない問題は多い。特に生体においては筋組織や神経組織の電気的活動がノイズとして除去できないこと、軟部組織の影響、特に筋組織のインピーダンス値が低いため,負荷磁場は骨組織以外の軟部組織を刺激することになる可能性があることなどである。今後は神経・筋組織の発生磁場の特異性を解析できればノイズを除去し、ピンを刺入することなく、骨組織のインピーダンス値を計測できる可能性が残されている。
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