研究概要 |
組織修復過程における間葉系幹細胞の起源と役割を明らかとするために、まず、移植した細胞を拒絶反応なしにin vivoで追跡可能なモデルを開発し、種々の組織において細胞追跡における本モデルの有用性を確認した。次にこれを用いて間葉系幹細胞の分化に関する研究を行った。移植モデルには導入遺伝子からタンパク発現がない雌トランスジェラック(TG)ラット細胞をドナーとし、その雌近交系ラットをレシピエントとして使用した。これらラットのDNAは理論的には導入遺伝子以外は同じであり拒絶反応なしに増殖したTGラット細胞内の導入遺伝子を近交系ラット組織内でin situ hybridization法により追跡することが可能である。さらにTGラット細胞の使用によりin vitroでの移植細胞へのマーカー導入操作を必要としない。本研究課題では、本移植モデルとBrdUに対する免疫組織化学染色により、移植した滑膜細胞が4週間は関節内で生存し移植することを明らかとした(Trans ORS 1998,Cell&Tissue Res 1999)。また、新たに開発した微少インデンテーション試験器を応用することで、関節軟骨欠損への骨軟骨移植後に移植骨軟骨片細胞が内軟骨骨化を起こし、修復軟骨組織の粘弾性の回復に深く関与することを明らかとした(TransORS1999)。以上の如く本移植モデルを応用することにより、様々な組織修復に関しての生物学的および生体工学的評価を組み合わせた多角的な研究が可能であった。一方、骨髄は間葉系幹細胞の一つの起源として広く知られている。本研究ではTGラット骨髄細胞を近交系ラットに作製した膝内側側副靱帯損傷部に移植し、移植細胞の分化を形態学的に検討した。その結果、骨髄細胞が靱帯修復過程において線維芽細胞へ分化し、靱帯組織を構成することが明らかとなった(Hilton Head Workshop 1999)。
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