【目的】今年度、我々は移植神経切断のコリンアセチル基転位酵素活性値(以下CAT活性値)を測定することによって端側吻合モデルの神経再生を検討するため、以下の実験を行なった。 【対象および方法】 15週齢のF344系雄ラットの腓腹筋への筋枝を用い以下のモデルを作製した。 I群(端側吻合群) : 神経縫合による本幹の軸索の損傷を避ける目的でシリコンチューブによるV型チャンバー(内径1.0mm)を作製した。切断した内側筋枝の遠位端を顕微鏡下に11-0ナイロン糸にチューブ内腔に固定し、外側筋枝側面にその断端を接着させるようにした。また、切断した内側筋枝の中枢断端は結紮、反転させておいた。 II群(端々縫合群) : 内側筋枝を切断した後、11-0ナイロン糸にて4針の端々縫合を行なった。 III群(切断群) : 内側筋枝を切断し、近位断端を結紮、反転した後、遠移断端も反転させ、内側腓腹筋に縫着した。 各群において各々18匹ずつ作製し、術後1、2、3ヶ月の時点で各々6匹ずつ内側筋枝と内側腓腹筋を採取し、CAT活性測定と筋湿重量(手術側/非手術側)および組織学的検討を行った。 【結果】 (1)CAT活性 III群においてCAT活性値が経時的に低下していくのに対し、I群およびII群では経時的に増加するのが認められた。また、術後3ヶ月の時点でI群とIII群、II群とIII群の間に有意な差が認められたものの、I群とII群の間には有意な差が認められなかった。 (2)筋湿重量(手術側/非手術側) 術後3ヶ月の時点でIII群は筋萎縮が進行したのに対して、I群はII群と同様に経時的な筋重量の増加が認められた。また、術後3ヶ月の時点でI群とII群、I群とIII群、II群とIII群の全てに有意な差が認められた。 (3)組織学的所見 III群の移植神経横断面にワーラー変性による神経線維の萎縮、消失が認められたのに対し、I群およびII群では神経繊維の再生が認められた。 【考察および結論】 今回の実験モデルにおいて端々縫合よりもCAT活性値および筋湿重量は低い蛍光にあったものの、神経の端側吻合群でも神経の再生が確認され、再生程度は経時的に増加することが認められた。このことから、現在、腕神経叢損傷における神経移行術の際に使用されているCAT活性測定は神経再生の評価にも有用であると考えられた。今回の結果より、今後、腕神経叢損傷等の中枢断端の使用不能な場合の機能再生といった、臨床の場での端側縫合の応用の可能性が考えられた。
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