研究概要 |
本研究の目的は腰椎椎間板ヘルニアの神経囚性疼痛発現に関与するアラキドン酸カスケードの炎症関連物質を明確にすることにある。左側第4-5腰椎片側椎弓切除術により露出したL4,5神経根上に切断尾椎椎間板より摘出した髄核を移植したラットモデルを用いて,経時的に圧刺激、熱刺激を足部に加え、逃避するまでの重量、潜時を求め、感覚障害を定量的に観察した。このモデルでは神経因性疼痛の指標である圧刺激に対する痛覚過敏の発現が処置後3週まで認められた。一方,ナイトロミンの静注により作成した白血球減少ラットでは神経根上に自家髄核を留置しても圧・熱刺激に対する痛覚過敏の発現はみられなかった。組織学的には前者のモデルでは脊髄神経根周辺に炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織の形成が認められたが,後者のモデルではこれらの変化は乏しかった。したがって,髄核移植による痛覚過敏発現には髄核そのものよりも神経根周辺の炎症細胞が関与することが判明した。さらに,トロンボキサンA2、ロイコトリエンB_4の阻害剤の硬膜外投与による足部の感覚障害の変化を経時的に観察したところ白血球遊走に関与するロイコトリエンB_4の阻害剤投与により一過性に痛覚過敏の減弱がみられた。組織学的に脊髄神経根周辺の肉芽組織を観察したところロイコトリエン出投与ラットではマクロファージをはじめとする炎症細胞浸潤が乏しいことが判明した。したがって,腰椎椎間板ヘルニアの神経因性疼痛発現の早期には髄核組織そのものよりも白血球をはじめとする炎症細胞が関与する可能性があることが明らかとなった。今後は,ロイコトリエン受容体拮抗剤、シクロオキシゲナーゼ2特異的阻害剤の硬膜外投与が椎間板組織の脊髄神経根上留置による痛覚過敏発現に影響するかどうかを観察する予定である。
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