研究概要 |
胸椎後縦靭帯骨化症における安全な胸髄除圧法開発は脊椎外科の難問として残された課題である。脊髄に対して安全とされる胸髄後方除圧では,(1)除圧中の急性脊髄障害発生,(2)不完全脊髄前方除圧度,(3)後方除圧後の胸椎後弯度の増加による脊髄障害発生などがその欠点とされている。(1),(2)は不十分な胸髄後方移動阻害因子の除去に,(3)は脊椎後方組織を切除する椎弓切除法に起因するものである。我々は胸髄後方移動阻害因子を解明し,これを広範囲頚胸椎脊柱管拡大術を用い段階的に排除する方法(段階的後方進入脊髄除圧法)を開発し,上記の欠点を全て解決することができた。胸髄後方移動阻害因子には,縦因子(脊髄因子;後縦靭帯骨化巣上下の脊髄の前方牽引作用),縦横因子(硬膜因子;背側〜神経鞘部硬膜の脊髄押込み作用),横因子(神経根因子;神経根糸が後縦靭帯骨化巣端に固定されることによる胸髄繋留作用)がある.これらを順次除去後に必要な場合にのみ胸椎後縦靭帯骨化巣処置(切除あるいは前方移行)を行った。特に横因子の解明とその除去法開発は,高度な後縦靭帯骨化巣も含め,安全・確実な後縦靭帯骨化巣処置を後方進入で可能とし,特殊な場合を除き直接前方進入法を不要化した。以上のことは,15症例,平均47ケ月(範囲12-103ケ月)の追跡(全例改善)で実証された。
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