研究概要 |
【研究目的】ischemic preconditioning(IPC)とは、短時間の阻血と再灌流を数回繰り返した後に長時間の阻血が加わった場合に、その後の再灌流障害が抑制されることを意味する。我々は、運動器の阻血においてIPCの阻血と再灌流のサイクル回数を変え、IPCの至適サイクルを明らかにしたい。 【研究方法】ラット後肢の大腿動静脈をマイクロクリップでクランプする筋肉阻血モデルを用い、評価する筋肉は前脛骨筋とした。対照群として、手術操作のみを加えるsham control(SC:n=8)、4時間の阻血後に24時間の再灌流を加えたものをIR群(n=4)とした。IPC群として4時間の阻血前にIPC(IPC1サイクル:10分阻血+10分再灌流)を加えた後に24時間の再灌流を加えたものとし、そのサイクルを1から5回まで変え、各々IPC-1,2群(n=7)、IPC-3,4,5群(n=5)とした。検体となる前脛骨筋を近位から遠位へと均等に6スライスに分割し、筋vialilityはNBT法により形態評価し、各群の平均壊死率(%NAR)を求めた。統計学的検討はANOVA及びpost hoc testにて行い、p<0.05を有意差ありとし、各データはMean±SEMで表示した。 【結果・考察】角群の%NARはSC群:0±0、IR群:66.2±5.9、IPC-1群:27.5±8.0、IPC-2群:29.5±6.2、IPC-3群:9.6±3.4、IPC-4群:10.3±2.2、IPC-5群:11.4±2.4となり、全てのIPC群はIR群に比べて壊死率は軽減し、(p<0.000001)、またその効果はIPCが1ないし2回に比べ、3回以上でより効果的(p<0.01)であった。よって、IPCの至適サイクルは3回以上5回までは筋肉組織での阻血後再灌流障害を軽減できることが判明した。今後は、筋肉組織中のAPT含量、MPO活性、LPO濃度などの測定を行うことによりIPC効果の有無につき、さらに生化学的に明確にすること、またIPCと関連があると云われるnitric oxide(NO)、heat shock protein、adenosineやK-ATP channelについても検討し、IPCの機序につき明らかにしていきたい。
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