本研究は、疼痛刺激による一酸化窒素産生状態を観察し、刺激の部位と一酸化窒素産生量を定量的に評価することを目的とした。 一酸化窒素測定装置(インターメディカル社NO-501)微小一酸化特異的電極を用いて脊髄内一酸化窒素の基礎的産生量を測定した。 基礎的一酸化窒素産生量は個体による差がみられたが、疼痛刺激により一酸化窒素の産生が増加した。この変化量は、腰部脊髄レベルでは両下肢および尾の疼痛刺激のほうが上肢の刺激よりも上昇の程度は大きかった。 ピンチによる疼痛のようなAδファイバーを介する刺激に対し一酸化窒素が関与する程度は明らかではないが、何らかの疼痛伝達に関与している可能性を明らかにしたと考えられる。 下肢足底部に対するフォルマリン疼痛刺激はピークまで30分を要するようにゆっくりとした反応ではあったが変化量は大きく、Cファイバーを介する疼痛伝達に関与していることが示唆された。 一酸化窒素産生を抑制するL-NAMEの投与は、基礎産生量は大きな変化がみられなかった。これは、電極法による基礎電流の発生は一酸化窒素のみによらないことが示唆される。刺激の無い状態では産生がみられない可能性があると考えられる。 この状態下での各部位への疼痛刺激は大きな産生量の変化が得られなかった。各部位の変化量は小さく、L-NAME投与がこの変化を抑制している可能性を示唆した。 今回の結果は、各部位の疼痛刺激が神経支配領域に応じた脊髄に一酸化窒素の発生を生じることを示した。さらに一酸化窒素合成酵素阻害薬を用いることでその反応が抑制されることを示した。疼痛伝達に一酸化窒素が直接的に関与していることが示唆された。 さらに疼痛刺激のみならず各種刺激を行い、反応を観察する事が有用であると思われた。
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