本研究の目的は、特に1歳以下の小児において、術後夜間の上気道閉塞による低酸素血症の頻度・重要性や検討や、成人と比較してその上気道閉塞の特殊性を検討することであった。残念ながら、術後夜間の低酸素血症に関する研究は、小児の睡眠中の体動の多さとそれに伴うパルスオキシメーターの測定値の信頼性低下により十分な研究を遂行することができなかった。しかし、小児における術後夜間呼吸障害の研究の重要性を示唆させる貴重な症例を経験し、これを報告した。今後、モニター測定精度・安定性の向上がこのような研究には必須であると実感した。気道閉塞性に関する研究は、特に新生児期に咽頭閉塞性が高いことや、うつ伏せ寝により咽頭閉塞性が増加することなど、科学的にも臨床医学的にも非常に有意義な研究成果をあげることができた。術後上気道閉塞のリスクは、新生児・うつ伏せ寝による管理により増加するものと考えられる。うつ伏せ寝は、現在Sudden Death Infant Syndromeの危険因子とされているが、なぜ、うつ伏せ寝でSIDSが発生しやすいのか、その機序は不明である。今回の研究結果は、うつ伏せ寝による咽頭閉塞性の増加による上気道閉塞がその病態に関与することを示唆するものである。今回の研究は全身麻酔下筋弛緩状態という非常に特殊な状況での研究であったが、実際には生体は上気道筋活動により上気道を維持する神経学的調整系が発達していることが知られている。我々のデータを他の異なった研究系でのデータと比較すると、新生児は特にこの神経学的調節系が発達していることが示唆される。このことは、逆に新生児期の睡眠時無呼吸症やSIDSの発症に、この神経学的調節系の障害も関与することを示すもので、今後この方面からの研究も重要であると考えられる。
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