グルタミン酸受容体チャネルは、高等動物の中枢神経系における速い興奮性シナブス伝達の大部分を担っていることから、特にその生理的意義は大きい。近年の研究により全身麻酔薬や鎮痛薬の作用機序にグルタミン酸受容体チャネルの抑制が関与することが指摘されている。本研究では全身麻酔薬のグルタミン酸受容体チャネルに対する作用をサブユニットレベル、さらにアミノ酸レベルで解析し、麻酔薬の作用機序を分子レベルで理解することを試みた。さらに、特定のサブユニットの麻酔作用における役割を解明すべく、あるサブユニットを欠損するノックアウトマウスでの麻酔薬による個体反応を解析した。まず、ブチロフェノン系鎮静薬がε2サブユニットから構成されるNMDA受容体チャネルを選択的に抑制すること、さらに、心臓麻酔時の大量麻薬麻酔における血中濃度の麻薬ではNMDA受容体チャネルはほとんど抑制されないが、硬膜外鎮痛時に脳脊髄液中で認められる濃度の麻薬が、NMDA受容体チャネルを直接抑制し得ることが示された。さらにブチロフェノン系鎮静薬や麻薬のNMDA受容体チャネルに対する作用機序としてMg^<2+>や解離性麻酔薬の作用部位と一部重複する部位におけるチャネル閉塞機序が関与することが示唆された。さらに、ε1サブユニット欠失マウスにおけるケタミンの麻酔作用を解析した結果、ケタミンによる麻酔作用の発現にε1サブユニットから構成されるNMDA受容体が関与していることが示唆された。これらの結果から、チャネルにおける麻酔薬作用および個体における麻酔作用に、特定のチャネルサブユニットあるいはサブユニット上のアミノ酸が関与していることが示唆された。
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