ヘパリンの拮抗薬であるプロタミンは、全身血管抵抗低下、肺動脈圧上昇、直接心筋抑制の3つの相互作用により破局的な循環変動を引き起こす。今年度に行った研究では、このうちプロタミンの心筋抑制作用に焦点を絞り検討した。実験方法は、Fura-2/AMで色素負荷したLangendorff型心臓灌流標本を作成し、プロタミンの投与による心筋細胞内カルシウム濃度と心機能データの変化を測定記録した。さらに、プロタミンの心抑制作用にヘパリンがどのように関わるかについても検討を加えた。その結果、まずプロタミンは量依存性、時間依存性に心収縮抑制作用を示した。すなわち、10mg/Lでは明らかな作用を示さなかったが、20mg/Lでは約50%の左室収縮能の低下を示し、40mg/Lでは心停止する心臓がみとめられるようになった。また、20mg/Lのプロタミンを投与した場合、投与5分後までは明らかな左室収縮能の低下作用を示さないが、投与8分後頃より急速に左室収縮能が低下し、10分以上投与した場合にはプロタミンの投与を中止しても左室収縮能の回復に時間を要することが明らかになった。さらに、プロタミンの投与後にヘパリンを含んだ灌流液で灌流すると心機能の回復が早くなる傾向が認められている。心筋細胞内のカルシウム濃度に関しては、現在データ数を増やして細胞内カルシウム濃度変化と心筋収縮能変化の解離について解析をすすめているところである。今後の研究の展開としては、心筋細胞内カルシウム濃度の変化の解析とともに、プロタミンの筋小胞体に及ぼす影響がヘパリンの存在の有無によりそれがどのように変化するか、さらに心筋虚血を負荷した場合についても検討を加えたい。また、瞬間凍結、乾燥保存してある心臓の代謝物質を測定して心筋代謝の面からもプロタミンの影響を検討する予定である。
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