昨年度はヘパリンの拮抗薬であるプロタミンの量依存性、時間依存性の心収縮抑制作用に関する結果が得られた。今年度では、プロタミンの心筋抑制作用と心筋細胞内カルシウム濃度の関係、陽イオン化したプロタミンの心抑制作用に対する陰イオン化したヘパリンの影響について検討した。実験方法は、Fura-2/AMで色素負荷したLangendorff型心臓灌流標本を作成し、プロタミンの投与による心筋細胞内カルシウム濃度と心機能データの変化を測定した。その結果、プロタミン(20mg/L)の投与5分後においては左室収縮能と収縮期細胞内カルシウムレベルは変化しないが、細胞内カルシウム変動幅の有意な減少と心筋酸素消費量の上昇(10%)が認められた。投与10分後においては左室収縮能の抑制(50%)と収縮期細胞内カルシウムレベルの減少(10%)も認められた。プロタミンを投与中止後は、収縮期細胞内カルシウムレベルは2分以内に回復したが、左室収縮能の回復には10分間必要だった。また、ヘパリンでWashoutした場合は、心機能と収縮期細胞内カルシウムレベルに変化を認めなかったが、細胞内カルシウム変動幅の回復が促進された。以上のことから、プロタミンの有する心筋抑制作用は細胞内カルシウムの低下によること、プロタミン投与中止後も持続した心筋抑制には心筋ミオフィラメントのカルシウム感受性低下も関わっていることが示唆された。また、プロタミン投与初期に認められた細胞内カルシウム変動幅と左室収縮能の解離から、プロタミンはミオフィラメントのカルシウム感受性を一時的には上昇させることも示唆された。さらに、ヘパリンによるWashoutでは細胞内カルシウム動態に若干の変化を認めたが、心機能の回復を促進するまでには至らないことが示された。今後の研究の展開としては、プロタミンは人工心肺離脱後に使われることから、心筋虚血とプロタミンの影響についても検討を加える予定である
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