平成10年度はプロタミンが有する量、時間依存性の心収縮抑制作用のデータが得られた。平成11年度では、プロタミンの心収縮抑制作用と心筋細胞内カルシウム濃度の関係と、プロタミンの投与後にヘパリンでWashoutすると細胞内カルシウム変動幅の回復促進を認めるが心機能の回復には影響を及ぼさないことが判った。そこで今年度においては、心収縮抑制作用におけるヘパリンとプロタミンの関係を更に調べるために、ヘパリン投与後にプロタミン投与した群と、ヘパリンとプロタミンを同時投与した群を、プロタミン単独投与した群と比較検討した。実験方法は、これまでと同様にFura-2/AMで色素負荷したLangendorff型心臓灌流標本を作成し、心筋細胞内カルシウム濃度と心機能データの変化を測定した。その結果、ヘパリンの前投与により、プロタミンの左室収縮能低下作用が増強される傾向が認められ、プロタミン投与中止後の左室収縮能の回復も遷延した。心筋細胞内カルシウム濃度に関しても、ヘパリンを前投与しておくと変動幅の有意な減少が認められた。これに対して、ヘパリンとプロタミンを同時に投与すると、プロタミン単独投与した群と比較して、左室収縮能低下が有意に抑制され、細胞内カルシウム濃度への影響も抑えられた。以上のことから、ヘパリンの投与時期によりプロタミンが有する心収縮抑制作用が変化することが判明した。つまりヘパリンをプロタミン前に投与すると、プロタミンの有する細胞内カルシウム減少作用を増強することにより左室収縮能低下作用が増強し、ヘパリンをプロタミンと同時に投与すると、プロタミンが本来有する細胞内カルシウム低下作用を抑制することにより収縮能低下作用を打ち消すことが判明した。すなわち、ヘパリン-プロタミン複合体には心筋への作用は小さく、心筋が予めヘパリンにさらされているとプロタミンの作用が増強することが示唆された。
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