研究概要 |
昨年度の研究により、笑気による脊髄後角ニューロンの抑制作用には下行性抑制の関与が大きいのに対し、キセノンによる抑制には下行性抑制系は関与しない可能性が示唆された。そこで本年度は、昨年度の実験結果を踏まえ、笑気の鎮痛作用に関与する下行性抑制系の伝達物質を明らかにすることを目的として実験を行った。ネコを用いて,吸入麻酔薬セボフルレンの吸入で麻酔を導入した後,末梢静脈路を確保し,筋弛緩薬ヴェクロニウムを投与した後気管内挿管を行い,人工呼吸を行った。吸気及び呼気の二酸化炭素分圧,酸素及び笑気及びキセノンの濃度をモニターした。その後麻酔はウレタンクロラロースの静脈内投与に変更した。総頚動脈,内頚静脈にカニュレーョンし,輸液及び薬物投与路,観血的動脈圧測定及び採血用に使用した。ネコを脳脊髄定位固定装置(SN-1N)に固定した後、椎弓切除を行った。電極として3本のガラス電極からなるマルチバレル電極を用い、記録電極には従来と同じくポンタミンスカイブルー溶液を混じた酢酸溶液を満たした。この条件で、キセノン或いは笑気吸入により抑制反応の観察されるニューロンにおいてイオン化注入装置(SEZ-1100)を用いて薬物を持続投与し,キセノン或いは笑気による脊髄後角広作動域ニューロンの抑制反応が影響を受けるかどうかを検討する予定であった。しかしながら、マルチバレル電極では従来と異なり安定した長時間のニューロン記録が困難であり、記録できた場合にも他のバレルからの薬液(α2アドレナリン受容体拮抗薬ヨヒンビン或いはオピオイド受容体拮抗薬ナロキソン)の注入を行うと、記録状態が変化してニューロンが失われてしまうケースが相次ぎ、笑気の鎮痛作用に関与する下行性抑制系の伝達物質を明かにするだけの実験データは得られなかった。
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