研究概要 |
キセノンの中枢神経作用を電気生理学的に解析した研究によって、キセノンが笑気と同じ興奮性麻酔薬に分類されることが示唆されてきた。従来笑気の鎮痛作用に関しては下行性抑制系の関与が示唆されている。そこで,本研究ではキセノンの鎮痛作用のメカニズムに関して、脊髄の後角ニューロンにおけるキセノンの抗侵害受容作用を指標として、脳幹からの下行性抑制系の関与の有無を検討した。ウレタンクロラロースで麻酔し、胸髄下部で脊髄を切断したネコの、後肢に受容野を有する脊髄後角ニューロン記録した。後肢の受容野に筆による触刺激或いは有鈎ピンセットによる痛み刺激を一定の強度で与えた。安定した反応が得られた後、吸入ガスを酸素30%窒素70%から酸素30%キセノン70%または酸素30%笑気70%に変えて20分間吸入させ、その間のニューロンの刺激に対する反応を記録した。キセノン或いは笑気吸入後20分間以上観察して回復を確認した後、ニューロンの記録を終了した。その結果、脊髄切断したネコにおいては、記録した12個のニューロン全ての反応がキセノン吸入によって触刺激に対しても痛み刺激に対しても抑制されたのに対し、笑気の吸入では触刺激では12個の内6個、痛み刺激では12個の内4個のニューロンしか抑制されなかった。overallのデータでもキセノンは触及び痛み刺激に対する反応を吸入中に各々63%及び59%まで低下させ、これは統計学的に有意な変化であった。一方笑気吸入中の最大低下は触刺激及び痛み刺激に対して各々91%及び92%であり、有意な変化ではなかった。脊髄インタクトのネコを用いた実験ではキセノンも笑気も痛み刺激に対する反応において60%程度までの抑制作用を示したので、以上の事実は笑気による脊髄後角ニューロンの抑制作用には下行性抑制の関与が大きいのに対し、キセノンによる抑制には下行性抑制系は関与しない可能性を示唆している。
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