視床痛に代表される中枢性疼痛(中心痛)、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛、反射性交感神経性ジストロフィーなどは病因は異なるが、いずれも治療抵抗性の難治性疼痛で、永続的な除痛法がない。我々が行っている治療法(Drug-induced convulsive therapy ; DICT)、すなわち大槽内にコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムを注入し、痙鑾(脳波上)を誘発することによって長期間にわたる除痛効果を得ている。本研究はDICTにおいて痙鑾(脳波上)がどのように関連しているのか、また治療に併発する前向性、後向性健忘と除痛効果の関連性について検討したものである。 1年目と2年目において、雑種成犬を用いてメチルプレドニゾロンの大槽内注入によって痙鑾が誘発されることを確認し、痙鑾の程度と相関して坐骨神経結紮による擬似的坐骨神経痛の緩和が得られることを確認した。3年目と4年目においては、実際にDICT治療を受けた患者の脳波を定性的、定量的に解析することにより、DICTの治療効果が痙鑾脳波の特性と深く関与していることを明らかにした。 また、健忘のみられなかった症例においては治療効果は十分でなく、DICTと記憶との関連も示唆された。さらに、Single photon emission computed tomography(SPECT)をDICT治療前後で測定し、治療後に視床付近の循環血液量が増加することも明らかにした。 中心痛などの難治性慢性疼痛は「脳に刷り込まれた痛み」などと形容されるが、その痛みはたとえ末梢であっても中枢で大きく修飾を受けている。一時的な異常脳興奮を与えること、さらにそれに併発する一過性の記憶喪失により痛みの悪循環を断ち切ることにより、長期間の除痛が得られているものと推察された。
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