青斑核から脊髄に投射したノルアドレナリン(NE)作動性ニューロンは下行性抑制系とよばれ、脊髄後角に神経線維を送り、そこで侵害受容性疼痛を中枢へ中継する二次ニューロンの細胞体にシナプス接続している。NE作動性ニューロンの終末部から放出されたNEは二次ニューロンの細胞体にあるαアドレナリン受容体に作用する。α_2アドレナリン受容体が刺激されると下行性抑制系が作動し、強力な鎮痛作用をおこす。一方、α_1アドレナリン受容体が刺激されるとG蛋白を介して細胞内情報伝達系の一つであるイノシトールリン脂質代謝(PIレスポンス)を亢進させる。α_1アドレナリン受容体が刺激されるとα_2アドレナリン受容体を介した反応を抑制することから、α_1アドレナリン受容体も下行性抑制の調節に関与していることが示唆される。今回、NEのED_<50>で亢進させた脊髄のPIレスポンスに対して静脈麻酔薬がどのように作用するかについて検討した。 方法:雄性ウイスターラット(250-350g)を対象とし、ネンブタール麻酔後速やかに胸部脊髄を取りだし幅1mmの横断切片を作成した。5mMLiClと[^3H]ミオイノシトールを含むK-H液に静脈麻酔薬のドロペリドール、チアミラール、ケタミン、フェンタニール、ミダゾラム、プロポフオールを投与し、15分後に2.5μMのNEを投与し60分間インキュベートし、PI代謝産物の[^3H]イノシトール1リン酸(IP_1)を測定した。 結果:ドロペリドールはNE誘発性IP_1産生を濃度依存性に抑制したが、ケタミン、フェンタニール・ミダゾラム・プロポフォールは影響なかった。チアミラールは1000μMで有意にNE誘発性IP_1産生を抑制した。
|