高濃度リドカインはザリガニ巨大軸索において2種類の非可逆的ブロックを生じせしめる。このうち細胞死(=静止膜電位の喪失で定義)をともなわず、wash後に静止膜電位が完全に正常にするが活動電位が観察できなくなるタイプの非可逆的ブロックの原因はイオンチャンネル蛋白もしくはその周囲のannular lipidの変化による電位依存性Na channelの閾値変化が原因ではないかと考えて時値の変化を調べたが、高濃度局麻薬短時間灌流では時値の変化は認められなかった。したがって神経細胞死をともなわない非可逆的ブロックの原因は閾値の変化ではなく、チャネル機能の失活とかんがえられた。また、同様の現象は他の局所麻酔薬でも確認された。 一方、細胞死にいたる非可逆的ブロックは膜破壊と考えられるが、溶血及び臨界ミセル濃度を指標としてリドカインを含むいくつかの局所麻酔薬の膜破壊作用を界面活性剤と比較したところ、局所麻酔薬と界面活性剤は同じ機序で膜を破壊することがわかった。すなわち局所麻酔薬は脂質膜融解作用により神経細胞死を引き起こす。とくに従来神経毒性が強いといわれてきたdibucaineは膜破壊作用が強く、膜破壊作用が一番弱いのはbupivacaineで、脊椎麻酔に使用する局所麻酔薬としてはbupivacaineがもっとも適当と考えられた。リドカインは中程度の膜破壊作用を有していた。
|