手術のために脊椎麻酔あるいは硬膜外麻酔を受ける65歳以上の高齢者および65歳未満の対照群を設定し、ミダゾラムの少量静注あるいは、プロポフォールの低用量持続静注を行い、無呼吸モニターを用いて中枢性および閉塞性無呼吸発作の頻度、低酸素血症の頻度と程度、血行動態について検討した。 現在までの主要な知見は、以下のようである。高齢者が脊椎麻酔や硬膜外麻酔を受けた場合、通常では無呼吸を起こさないような程度のきわめて少量のミダゾラムあるいはプロポフォールなどによる鎮静を加えても、中枢性および閉塞性、混合性無呼吸の頻度が増加した。平均年齢72±7歳の高齢者ではミダゾラム0.5静注で、19±10秒の閉塞性無呼吸が起こり、動脈血酸素飽和度は、ほとんどの症例で一過性に90%未満に低下した。プロポフォール2mg/kg/hrの持続静注でも、平均年齢72±3歳の症例で、20-30秒にわたる中枢性および閉塞性無呼吸発作が高頻度に起こり、動脈血酸素飽和度がほとんどの症例で90%以下に一過性に低下した。脊椎麻酔あるいは硬膜外麻酔中にミダゾラムあるいはプロポフォールによる鎮静を行った場合、高齢者では若年者に比べ、無呼吸発作の頻度の有意の増加、無呼吸持続時間の有意の延長、酸素飽和度低下程度の有意の悪化などが起きた。脊椎麻酔や硬膜外麻酔中は低酸素血症に陥っても血行動態変化が少なく、血行動態変化からは低酸素血症の発見は困難であった。 高齢者が脊椎麻酔、硬膜外麻酔を受ける場合には、通常では問題とならない鎮静薬の量でも、無呼吸発作、低酸素血症の頻度、程度とも増加するので、十分な注意が必要である。
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