研究概要 |
グルタミン酸受容体のひとつNMDA受容体は、神経入力に応じてそのシナプス伝達効率を変化させるため、神経可塑性のメカニズムを担う分子の一つと考えられている。1)脊髄損傷後の排尿障害や前立腺肥大症などに由来する下部尿路閉塞疾患の病態における脊髄排尿中枢におけるグルタミン酸関連分子の役割を検討した。Wistar系ラットを用い、脊髄離断による脊髄損傷モデルと、ナイロン糸による尿道の部分結さつによる下部尿路閉塞モデル(sham群、2週群、4週群)を作成し、脊髄排尿中枢の存在する脊髄L6-S1領域におけるNMDA受容体サブユニット(NR1,NR2A-2D)およびグルタミン酸トランスポーター(GLT1,GLAST,EAAC1)の各分子の変化をin situハイブリダイゼーション法により遺伝子レベルで解析した。下部尿路閉塞モデルでは湿膀胱重量の有意な増加が認められたものの、いずれのモデルにおいても、受容体およびトランスポーター分子ともmRNA発現レベルはコントロールに比較して有意な変化は認められなかった。以上より上記の病態における神経可塑性にはこれらの分子は直接には関与していないと考えられ、これらを間接的に修飾する因子についての検討が今後必要と考えられた。 また2)生後発達ラットの脊髄副交感神経節前細胞(PGN)におけるNMDA受容体サブユニットmRNAの発現を検討し、これをコンピューター画像解析装置にて半定量化した。生後7日ではNR1,NR2B,NR2Dの3種類のサブユニットが発現していたが、発達に伴いNR2のサブユニットの発現は減弱し、成獣においてはNR1の発現を認めるのみであった。これは半定量化したグラフ上で明らかな変化として表された。このことは、生後3週以内の幼弱ラットの排尿が脊髄反射で行われ、次第に橋排尿中枢を介する正常な排尿反射を獲得して行く事実と相関しておりNMDA受容体は排尿神経機構の成熟に密接に関連していると考えられた。
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