研究概要 |
近年,様々な悪性腫瘍において細胞周期関連遺伝子の発現異常が確認されており,癌の発生や進展との関連性が注目されている。本研究ではヒト腎細胞癌を対象として,その発生や進展に種々の細胞周期関連遺伝子が癌抑制遺伝子としてどのように関与しているかを調べるのが主な目的である。本年度はこれらの遺伝子の中でもとくにG1/S境界領域の制御に関与している遺伝子及び細胞周期チェックポイント機構の制御に関与している遺伝子について,原発腫瘍10検体及び同一の患者から採取した正常腎組織,樹立細胞株10種類における発現をRT-PCRを用いて解析した。G1/S境界領域の制御に関与している遺伝子については今回,p21(WAF1)及びp21の上流で働く遺伝子でp53と複合体を形成することによりp21の発現の誘導やアポトーシスに関与する遺伝子として知られているp33(ING1)の発現を解析した。その結果,p21については正常腎組織10例,原発腫瘍では解析可能であった8例,細胞株では9例に発現が確認された。また,p33については,細胞株1種類及び原発腫瘍1例を除く全ての組織において発現が認められた。今回解析した10細胞株のうち7細胞株ではp21遺伝子と同様にCD1/CDK4のinhibitorとしてG1/Sの制御に関与しているp16遺伝子の発現消失が既に確認されている.腎癌細胞におけるこれらの遺伝子の発現とCD1/CDK4さらにはRB遺伝子の機能との関連性は現段階では不明である.(2)細胞周期チェックポイント機構の制御に関与している遺伝子についてはとくに紡錘体形成のチェックポイント遺伝子の一つであるBUB1及びMAD2の2つの遺伝子について発現を調べた。その結果,正常の腎組織では1例にのみ発現が確認されただけであった。原発腫瘍では10例中7例において発現が消失していた。一方,細胞株では10株中9株において発現が認められた。また,BUB1についても同様の結果が得られた。これらの紡錘体形成チェックポイント遺伝子はその機能の消失が染色体の不分離による数的異常などいわゆる染色体の不安定性を引き起こすことが知られてる.今回の解析において原発腫瘍で発現が認められないということは癌細胞が組織内で分裂しているにも関わらず,紡錘体形成に関するチェックポイント機構が正常に作動していない可能性があり,腫瘍細胞とくに固形癌において認められる様々な染色体異常が誘発される要因である可能性が示唆される.
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