(1)マウス膀胱発癌モデルでは、Mage-a遺伝子の突然変異は生じておらず、正常膀胱組織では不活化されているMage-a遺伝子が膀胱癌組織では活性化されるとすれば、それは転写もしくは翻訳後の変化である可能性が示唆された。また、マウス膀胱発癌におけるTcf-4/β-catenin(Wnt signal)の意義は、大腸癌や肝細胞癌などと比較すると比較的低いと考えられ、このWnt signal活性化に直接Mage-a遺伝子の異常が関与する可能性は低いと考えられた。 (2)膀胱癌におけるMAGE-1遺伝子mRNA発現はVEGF-121 isoform mRNAならびにVEGF-165 isoform mRNA発現量と強い正の相関を示し血管新生と関連すること、heparanase mRNAと正の相関を示し腫瘍の浸潤転移能に関連する可能性が示唆された。この事実はMAGE-1遺伝子mRNA発現膀胱癌症例で非再発率が有意に低いことからも裏付けされる。一方、今回の研究からは、Tcf-4/β-cateninを介する細胞増殖シグナル(Wnt signal)の活性化の頻度は膀胱癌では低いことが想定されるが、MAGE-1遺伝子mRNA発現は間接的にWnt signalの活性化に関与する可能性が示唆された。しかしMMP-1遺伝子のpromoter領域におけるihsertion/deletion polymorphismを指標としたgenetic epidemiologyの関点からは、遺伝素因によりMAGE-1遺伝子mRNA発現の有無を予測することは困難であることが推測された。いずれにしろMAGE-1遺伝子mRNA発現は膀胱癌における生物学的悪性度の新しい指標と成りうると考えられた。
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