研究概要 |
VHL癌抑制遺伝子は淡明細胞腎癌の50〜60%に変異、不活化が検出される遺伝子であり、この遺伝子の機能を明らかにすることは淡明細胞腎癌を含むさまざまな腫瘍の発生機構の解明、さらにこれらの腫瘍の新規診断や治療の開発に不可欠と考えられる。今回の研究で以下のことが明らかとなった。1)VHL遺伝子産物(VHL蛋白)の発現量が細胞の密度によって劇的に変動することを見出した。すなわち細胞密度が疎な状態ではVHL蛋白の発現量は極わずかであるが、細胞密度が高くなるにつれその発現量がしだいに上昇し、発現量が100倍以上高くなることを見出した。さらにVHL遺伝子が変異している腎癌細胞株とこれに正常遺伝子を再導入した株細胞で、細胞の増殖速度に注目するとVHL蛋白が発現するにつれ腎癌細胞の増殖が抑えられること、またこの状態でVHL蛋白の発現を抑えると増殖率が高くなることを見出した。これらの観察から、正常VHL蛋白の機能として細胞密度が高くなると発現し細胞増殖を抑制することが明らかとなった。2)VHL蛋白と蛋白キナーゼCζ,λがVHL蛋白のβ-domainを介し直接結合することを見出した。3)我々はこれまでにVHL遺伝子が小脳ではプルキンエ細胞でよく発現していること、さらに脳腫瘍のうち散発例のグリオーマの一部でもVHL遣伝子の変異を見出しVHL遺伝子がグリオーマの発生にも関与することを明らかにしてきた。さらにVHL遺伝子が神経幹細胞から神経細胞への分化に関与しVHL遺伝子の導入がこの分化誘導を促進することを今回見出した。4)人の悪性腫瘍は一般に多段階の遺伝子変化により形成されると考えられる。我々はVHL遺伝子の変異は淡明細胞腎癌の発生過程のうち初期あるいは最初に起きていることを明らかにしてきた。一方、後期の遺伝子変化としてはPTEN/mmAC1/TEP1癌抑制遺伝子が一部の淡明細胞腎癌で関与していることを今回みいだした。
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