研究概要 |
前立腺の増殖および分化におけるエストロゲンの直接的な作用は未だ明かでない。本年度では、アンドロゲンとともにエストロゲンの前立腺増殖の制御機構における役割を検討した。 成長後(生後60日)のマウスの前立腺腹葉および後側葉を微小解剖し、無血清培養液上に浮かべたフィルター上にて器官培養を6日間行なった。テストテロン(10-7M)の存在あるいは非存在下に、エストラダイオール10-8Mを培養液に加え組織学的に検討するとともに,培養組織をBrdUにてラベリングし,エストラダイオールの前立腺上皮に対する直接作用の増殖動態を検討した。前立腺上皮の増殖因子であるtransforming growth factor(TGF)-α(10ng/ml)をテストステロン(10-7M)の非存在下に培養液に加え,エストロゲンの作用と比較検討した。 エストラダイオールは前立腺上皮細胞の増殖を促進させ偏平上皮化成様の形態を誘導した.この前立腺増殖作用は、BrdUのラベリングによる検討から主に基底細胞が標的と考えられ、培養後約2日目より形態学的な増殖反応が見られた。一方、TGF-αもエストラダイオールとほぼ同じ増殖作用を持ち、前立腺の偏平上皮化成を誘導した。 前立腺の異常増殖疾患である肥大症および癌の発生機構においてエストロゲンが何らかの役割を持つことが示唆されている.本研究ではエストロゲンは直接前立腺上皮の基底細胞を増殖させ,この増殖動態はTGF-αの作用と同じであった.エストラダイオールおよびTGF-αの前立腺細胞の分化増殖がおよぼす影響に関してさらに検討が必要と考えられた。
|