エストロゲン受容体(ER)はリガンド依存性転写因子であり、従来1分子種と考えられていたが、最近新たなER(ERβ)が見いだされた。そこで従来のER(ERα)とERβとの機能の相違を明らかにすることを目的として、生殖器官および胚における両者の局在と発現時期の解析を行った。まず、各々の特定のアミノ酸配列に対するポリクロナール抗体を作成し、ラットの生殖器官における局在を検討した。ウェスタンブロットにおいて、抗ERα抗体では卵巣と子宮に66kDaのバンドを、また抗ERβ抗体では卵巣、子宮および前立腺に55kDaのバンドを認めた。次にエストロゲン非存在下での両者の細胞内局在を免疫組織化学によって確認したところ、ERαは子宮内膜の腺および内腔上皮細胞の核に、ERβは腺上皮細胞の核だけに認められた。卵巣においては顆粒膜細胞の核が抗ERβ抗体で染色されたが、抗ERα抗体では特異的なシグナルを認めなかった。卵巣において、ERβはproestrous、metestrousとdiestrousに認められたが、estrousではほとんど認められなかった。以上よりラット子宮と卵巣において、ERαとERβの局在と発現時期には相違があることが明らかとなり、生殖器官における2つのレセプターの役割を理解するための手がかりとなると考えられた。さらに、初期胚発生における各ERの役割を理解するために、RT-PCRによってマウス卵細胞と 着床前胚においてERαとERβ両方の発現を検討した。ERαmRNAは卵巣、顆粒膜細胞・卵細胞複合体、母細胞、2細胞期胚および4細胞期胚で発現していたが、8細胞期胚では一旦消失し、桑実胚と胚盤胞で再び発現した。ERβmRNAは桑実胚で発現していないことを除きERαと同様な発現パターンが認められた。また、エストロゲン応答性遺伝子であるefpの発現がERαとERβの発現パターンと同期していることが確認された。以上より初期胚発生においてはERサブタイプ間での大きな相違はなく、両者ともにエストロゲンの初期胚における何らかの作用を仲介していることが明らかとなった。
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