研究概要 |
我々は,妊娠維持免疫反応発動に重要な役割を演じていると期待されているHLA-G抗原と妊娠中毒症発症機序の関連性を中心に研究を進めた。第一に、妊娠中毒症において認められるHLA-G発現異常が、はたして妊娠初期からすでに起こっているか検討するために、水溶性HLA-Gタンパクを測定するためのenzyme linked immunosorbent assay (ELISA)を確立した。第二に、妊娠中毒症患者の胎盤で報告されている異常なIL-2の発現とHLA-G発現の低下について、HLA-G発現が低下しているとIL-2で賦活化された脱落膜リンパ球の作用で絨毛細胞の増殖が低下し、胎盤形成が障害されて妊娠中毒症が発生する可能性を示した。第三に,末梢血中のリンパ球は膜結合型HLA-Gを認識すると、Th1サイトカインの分泌を減少させTh2サイトカインの分泌を増加させるが、脱落膜中のリンパ球は、Th1サイトカインの分泌を減少させるもののTh2サイトカインの分泌は変化させないことを示した。第四に,妊娠中毒症同様,妊娠維持免疫反応の異常が原因として重要と考えられている習慣流産に対し,HLA-Gの意義、および夫単核球を用いた免疫療法の作用機序に関して検討した。その結果、習慣流産夫婦におけるHLA-G多型は正常経産夫婦と差がないことがわかった。また、習慣流産に対する免疫療法の効果は、患者リンパ球のナチュラルキラー受容体の変化によらない機序で発揮されていることがわかった。第五に、習慣流産、中でもTh2優位の自己免疫異常による習慣流産に対して古くから用いられ、経験的に有効とされてきた柴苓湯と当帰芍薬散がともにTh1/Th2サイトカインバランスをTh1優位に移動させ、サイトカインバランスを正常化させることにより、流産を防止していることを示した。
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