研究概要 |
妊娠中毒症は,重症型では母児双方に重大な結果を招く危険性があり,重要な疾患である。従来よりその発症に遺伝的素因の関与が指摘されていたが、最近では免疫異常特に自己免疫反応が密接な関連性を有することが指摘されている。一方,このような遺伝学的免疫学的背景を有する多くの疾患がHLA抗原系との関連性を持つことが指摘され,原因究明に役立っている。このような観点から,今回の研究では重症型妊娠中毒症とHLA抗原系との関連性を明らかにすることを主たる目的とした。また,これに関して,妊娠中毒症の発症要因として注目されている抗リン脂質抗体(APA)(自己抗体の一種)の関与,妊娠中毒症とならび周産期領域あるいは生殖医学領域において注目されている不育症とHLA抗原系との関連性についても研究を進めた。研究結果は以下の如くである。 (1)重症妊娠中毒症をAPA陽性症例と陰性症例に分け,それぞれについてPCR-RFLP法を用い,HLA-DR抗原の型を判定した。正常妊娠婦人群と比較し,APA陽性群でHLA-DRB1^*04およびHLA-DRB1^*0403の頻度が有意に高率であることを観察した。(2)APA陽性不育症についてHLA-DR,-DQ,-DP抗原の型を判定した。その結果,正常妊娠婦人と比較し,HLA-DRB1^*04,HLA-DRB1^*0403,HLA-DRB1^*0410の頻度が有意に高率であることなどを観察した。(3)原因不明習慣流産についてHLA-DP抗原の型を判定した。その結果,一般集団と比較し,HLA-DPB1^*04,HLA-DPB1^*0402の頻度が有意に高率であることを観察した。(4)APA陽性血清の血管内皮細胞の増殖に与える影響を検討しAPAが,血栓形成抑制に重要な役割を果たす血管内皮細胞の増殖に抑制的に作用することを観察した。このことから,APAによる妊娠中毒症,不育症などの発症機序として,血管内皮細胞の増殖抑制を介した血栓形成の亢進が推察された。
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