研究概要 |
FHIT遺伝子は、多くの癌組織においてLOHや異常転写発現が頻発する癌抑制遺伝子であることが知られている。悪性型HPV感染とFHIT遺伝子の発現を検討したところ、ほとんどの子宮頚癌組織中にHPV-DNAは検出されたが、癌遺伝子であるE6-E7遺伝子の転写がみられない症例が存在した。E6-E7遺伝子の発現を認めない癌組織では高率にFHITの異常転写発現がみられた。一方、E6-E7遺伝子の発現が認められる症例ではFHITの異常transcriptionはほとんどみられなかった。これら異常転写発現を呈した症例では、fhit蛋白の発現がみられなかったことより、子宮頚部の癌化にはFHIT遺伝子の機能喪失が重要である可能性が示唆された。頚部の癌化の誘導には悪性型HPV感染とその遺伝子発現が重要であるが、癌化形質を獲得したのちにはFHIT遺伝子の機能喪失が二次的に誘導される可能性が示唆された。またその際には、免疫学的ターゲットとなりうるE6-E7遺伝子の発現が抑制された癌細胞のみが選択的に増殖した可能性も示唆される。(論文)。 すべての粘膜型HPVタイプの感染と子宮頚癌発生との関連を明らかにするために我々独自のHPV-DNA診断法を開発した(LCR-E7 PCR法)。この方法を用いると30タイプ以上の粘膜型HPVを検出可能である。子宮頚癌ではHPV16,18,31,33,35,51,58型などが単独感染として検出されたが、低悪性度病変ではHPV30,42,53,56,66型など新たなタイプの単独感染や、異なるタイプの混合感染が多数みられた。前者に代表される悪性型HPVタイプは選択的に持続感染し癌化を誘導するが、後者のHPVタイプは低悪性度病変を誘導する可能性はあるが癌化を誘導しないと考えられた。(国際ヒトパピローマウイルス学会、チャールストン、米国 1月、1999にて発表、論文準備中)。今後はHPVタイプの違いによる免疫応答の違いや感染様式の違いについて検討する予定である。
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