プロラクチン(PRL)分泌能を有するラット下垂体腫瘍細胞GH3細胞におけるmitogen-activated protein kinase(MAP kinase)の役割を検討した。Thyrotropin-releasing hormone(TRH)の添加はGH3細胞のPRL合成と分泌を促進した。一方、p44/42MAPキナーゼ活性を5分後に3倍に増加させた。この活性化反応はMAP kinase kinase(MEK)阻害剤で特異的に抑制された。TRHのPRL分泌促進作用はMEK阻害剤の影響を受けなかった。TRHはDNA合成を抑制し、形態学的変化を惹起した。この効果はMEK阻害剤によって阻止された。ブロモクリプチンの添加はp38MAPキナーゼの特異的阻害剤で抑制された。ブロモクリプチンの添加はp38MAPキナーゼ活性を48時間後に増加させた。同時にTUNEL法陽性のアポトーシス細胞も明らかに増加した。これらの変化はp38MAPキナーゼ特異的阻害剤で抑制された。TRHはブロモクリプチンによるp38MAPキナーゼ活性化やアポトーシスを阻害した。 以上の成績から、TRHによるp44/42MAPキナーゼ活性化反応はPRL分泌には影響しないが、PRLの合成、細胞増殖抑制、細胞形態の変化に関与する事が明らかになった。また、ブロモクリプチンはp38MAPキナーゼ活性を増加させアポトーシスを誘導する事、TRHを介するp44/42MAPキナーゼ活性化反応は、p38MAPキナーゼ活性化反応の抑制を介してアポトーシスを抑制する役割を有する事を意味する。これらの知見は、プロラクチン産生下垂体細胞におけるMAPキナーゼの機能分担を明らかにしており、一方ドーパミンのD2受容体を介さない作用機序解明にも貢献すると考えられる。
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