今までにβ鎖遺伝子構造異常を持つ変異LHが排卵障害患者で有意に高率に認められることを報告した。今年度はこの変異LHが排卵障害をもたらす機序について、下垂体における変異LHの分泌能から検討した。LHβ鎖遺伝子のDNA解析で変異LHが認められた3例のhomozygote、18例のheterozygoteおよび正常LHの27例を対象とし、LH-RH100μg1回静注試験を行い血中LH値の推移を比較検討した。血中LHの測定は完全型LHを認識するモノクローナル抗体を標識抗体としているSPAC-S LH試薬(RIA法)とLHポリクローナル抗体を標識抗体としているイムライズLH試薬(CLEIA-法)を用い、この二つの測定法によるLH値の解離比(RIA/CLEIA)の推移で変異LHの分泌能を検討した。その結果、正常LH症例のRIA-LH値およびCLEIA-LH値のpeakは30-60分に認められた。homozygote症例は排卵障害の有無に関係なく全例過剰反応を示した。排卵障害が認められるheterozygoteでのRIA-LH値のpeakは30-60分に、CLEIA-LH値のpeakは15-30分に認められ、LH値の解離の最大値は全例負荷15分後に認められた。同様な結果が排卵障害のないheterozygote症例にも認められた。故に、下垂体におけるGnRHに対するLHの感受性は正常LHよりも変異LHの方が亢進していることが示唆されたが、このことが直接には排卵障害をもたらすものではないことが推察された。しかし、総合的な血中LHレベルはPCOSに類似したhormone状態である事も判明し、実際に特異LHで排卵障害・不妊の症例に外因性に血中LHレベルを低下させ、妊娠を成功させた症例を経験した。今後、この変異LHの生物学的活性を加味し、排卵障害との関連性をさらに追求していきたい。
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