変異LHの排卵、生殖機構に対する影響および臨床学的意義について解明するために、本研究を行った。完全型LHを認識するモノクローナル抗体を標識抗体としているSPAC-S LH試薬とLHポリクローナル抗体を標識抗体としているイムライズLH試薬を用いる二つの異なった測定方法でLH値が2倍以上の解離を示した症例をPCR法により、LHの遺伝子解析を行った結果、解離の認められない症例はLHの構造異常が認められなかったが、解離を示した症例は全て第2エクソン内の2カ所に塩基の点変異(Thymine→Cytosine)とアミノ酸配列の変化(Trp8→Arg8、Ile15→Thr15)が認められたので、変異LHは遺伝子解析をするまでもなく二つの異なった免疫学的測定方法で容易にスクリーニング可能であることを発見した。このスクリーニング法を用いて臨床的に変異LHの存在頻度を検討すると、その存在頻度は正常婦人で8.5%であったが、生殖内分泌疾患患者では約2倍の頻度(18.4%)が認められ、排卵障害患者では約40%と高率であり、特に早発閉経、高プロラクチン血症、黄体機能不全で高率に存在することが示唆された。そこで、この変異LHが排卵障害をもたらす機序について、下垂体におけるLH-RH刺激に対するLHの分泌能を検討した結果、wild LHよりも変異LHの方が早期により多く分泌されており、下垂体の感受性は変異LHの方が亢進していることが示唆されたが、このことが直接的には排卵障害をもたらすものではないことも併せて推察された。しかし、総合的な血中LHレベルはPCOSに類似したhormone状態である事も判明し、実際に変異LHで排卵障害・不妊の症例に外因性に血中LHレベルを低下させ、妊娠を成功させた症例を経験した。今後、この変異LHの生物学的活性を加味し、排卵障害との関連性をさらに追求していきたい。
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