癌化にともなって生ずる多数の遺伝子異常がみつかり、種々の癌における多段階での発癌機構が明らかになりつつある。我々はRT-PCRを用いて評価した上皮性卵巣癌におけるthymidine phosphorylase(TP)mRNA発現がその予後に影響することを明らかににてきた。TPは腫瘍細胞から産生され卵巣癌における血管新生そしてその増殖に関与する酵素である。さらにTPはprodrugである5'-deoxy-5-fluorouridine(Furtulon)を5-FUに変換する酵素でもある。serum-free mediumを用いた3次元血管新生モデルにFurtulonを添加すると血管新生は抑制された。TPを含んだmediumとTP活性の高い卵巣癌患者腹水をmediumとして用いた3次元血管新生モデルではcontrolに比べて血管新生は助長された。そこにFurtulonを添加するとFurtulon単独の場合に比べてより血管新生を抑制した。Furtulonはそれ自体血管新生抑制作用を有するが、TP存在下ではFurtulonより変換された5-FUにより血管新生抑制作用が助長されると考えらた。TP活性が高い場合にFurtulonを投与することは血管新生を抑制し、腫瘍の増殖を抑えることになる。したがって、卵巣癌を診断し術前にFurtulonを投与することは有効な卵巣癌の治療法と成り得ると考えらた。以上より卵巣癌におけるTPmRNA発現の評価は、血管新生阻害をもとにしたtumor dormancy therapyという新しい治療の臨床応用へつながるものと考えられる。
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