妊娠初期における母体血清中の胎児DNAを用いた出生前診断法の有用性を検討した。 [方法]当科で妊婦検診を受けた妊婦のうち同意の得られた正常妊娠81例(妊娠5週から10週、平均:8週3日)を対象とした。妊婦の同意を得たうえで6mlから10mlの末梢血を採血した。その後、血清を分離しQiagen社のQLAamp DNA Blood Mini Kitを用いてDNAを抽出した後、PCR法を用いてY染色体に特異的な遺伝子領域DYS14(198bp)検出を行って性別判定を行った。また、男児と判定された症例についてABI PRISM 7700 Sequence Detection Systemを用いて性決定遺伝子SRYを定量し、β-Globin遺伝子を外部標準として母体血清中の胎児DNA量を算出した。[結果]81例中、40例が男児でこのうち38例(95%)で血清中にDYS14が検出された。DYS14が検出されなかった男児2例は妊娠5週および6週に採血した症例であった。一方、41例の女児ではいずれもDYS14が検出されなかった。また、男児と判定された38例のうち23例における胎児DNAの定量的評価では、母体血清中DNAにしめる胎児DNAの割合は0.046から3.65%(平均;0.87%)であった。[結論]妊娠初期には母体血清中に1%弱の割合で胎児DNAが存在していることが判明し、PCR法を用いたDYS14検出による胎児性別診断は伴性劣性遺伝性疾患のスクリーニング検査として有用であることが示された。しかし、妊娠6週以前では胎児DNA量が少ないため偽陰性になる可能性があり妊娠7週以降にこれを実施することが望ましい。臨床応用する場合には今後さらに症例数を増やし偽陰性率に関する詳細な検討を行う必要がある。
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