妊娠子宮において、1993年、Nitric Oxide(NO)代謝経路の存在が見いだされた。またNOは子宮筋収縮を制御するため、NOの消長は早産の病態にもかかわっているとの報告もでてきた。今回の研究の目的は(1)妊娠中期及後期ラットを用いNO関連物質を経静脈的に投与し、子宮筋収縮に与えるNOの影響をin vivoで検討した。(2)妊娠各時期の母体血清中窒素酸化物(NOx)濃度を測定し、切迫早産症例と比較検討した。<結果>(1)L-arginineは妊娠中期において子宮筋収縮を有意に抑制した。NO donor であるSodium Nitroprusside(SNP)は妊娠中期及び末期の筋収縮を抑制し、特に妊娠中期では妊娠末期に比し有意に抑制した(p<0.01)。NO合成酵素阻害剤であるL-NAMEは妊娠中期で有意に子宮収縮を亢進させた。(2)妊娠各時期の妊婦のNOx膿度においては、初期(23.1±2.3μmol/l)に比較し、中期は43.4±6.3μmol/lと有意に高値を示した(p<0.05)。末期では35.4±4.4μmol/lと中期に比較し、やや減弱した。切迫早産妊婦では26.6±3.1μmol/lと中期の正常妊婦に比し有意に低値を示した(p<0.05)。<結論> L-arginine-NO-cGMP systemが妊娠子宮に存在し、妊娠中期にその機序が亢進し妊娠末期には減弱することが示された。このことが妊娠中期の子宮収縮を抑制し早産予防、妊娠維持に重要な役割を果たしており、その産生障害が早産に至る原因の可能性が示唆された。またNOの感受性が妊娠末期に向かって減少することは分娩発来の一つの要因になっている可能性が示唆された。
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