研究概要 |
近年、がん細胞の膜表面に存在する糖鎖が、がん転移に関与することが明らかになっている。そしてがんの転移や細胞の悪性度は、糖鎖の発現を調節する「糖転移酵素」とよばれる酵素遺伝子によって制御されると考えられている。我々は平成8年度〜平成9年度文部省科学研究費補助金(基盤研究C2)「子宮体癌の進展・転移に関与する糖鎖の解明」の研究などを通して、女性性器悪性腫瘍のがん細胞における糖鎖発現やその生物学的意義を検討してきた。さらに、平成10〜11年度本研究にて、子宮体癌における糖転移酵素について、とくにβ1,4ガラクトース転移酵素遺伝子の発現と子宮体癌細胞の特性の関連を検討した。以上の研究経過をふまえて、本年度は、ヒト子宮体癌由来株細胞であるSNG-M細胞を用い、同細胞にβ1,4ガラクトース転移酵素(以下β1,4GTと略)のsense cDNAあるいはantisense cDNAを遺伝子導入した細胞を用いて、in vitroでの細胞特性に関する検討を進めるとともに、in vivoの解析を行った。その結果、β1,4GTのsense cDNAを導入した高発現株は、in vitroにて細胞のマトリゲルへの浸潤能や細胞外基質への接着能が冗進した。また、β1,4GTのantisense cDNAを遺伝子導入した低発現株は、in vivoにてヌードマウスの異種移植能が低下する傾向が認められた。以上より、子宮体癌細胞の浸潤・転移には、β1,4ガラクトース転移酵素が関与している可能性が示された。今後、β1,4ガラクトース転移酵素遺伝子導入細胞における糖鎖の改変や接着分子の発現の変化について詳細な解析を進め、本研究で見られた細胞特性の変化のメカニズムを明らかにする必要があると考えられた。
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