研究概要 |
癌細胞における糖鎖構造の変化のパターンはその由来臓器により異なるため、各臓器ごとに検索しなければならない。子宮体癌(体癌)では、lectinを用いた検索によって末端にfucose(Fuc)を有する糖鎖の増加が判明したことから、各種Lewis型糖鎖の発現パターンを免疫組織化学的に検索した。その結果、Lewis(Le)^yとLe^bの発現は80%以上の症例に認められるのに対し、LeaおよびLexは20〜30%と低率であり、I型糖鎖であれII型糖鎖であれ非還元末端のFucが増量していると考えられた。さらにsialyl Le^aとsialyl Le^xの発現は5〜10%とさらに低率であり、体癌で増量する末端の糖鎖残基はsialic acidではなくFucが主体であることも明らかになった。 一方、我々の所有する抗子宮体癌モノクローナル抗体は、albuminに人工的に結合させた各種oligo鎖とのin vitroの反応性の解析から非還元末端にα1,2結合したFuc-であることが判明している。この抗体は組織化学的に正常内膜にはほとんど反応しないのに対して体癌の90%以上に陽性で、癌特異性の非常に高い抗体であり、他のLewis抗原を認識する抗体の体癌に対する反応パターンとの比較では、同じく末端にFucをα1,2結合で含有するLe^b抗原あるいはLe^y抗原あるいはその両者の発現する体癌に対して本抗体は100%陽性となり、組織化学的にも認識抗原糖鎖構造の観点からreasonableな結果が得られた。この抗本の認識するFucの発現は、(1)遺伝子レベルにおけるpolymorphismの検索の結果、Lewis式血液型を規定する酵素であるfucose転移酵素(FucT)-IIおよびFucT-IIIに非依存性であり、また(2)FucT-I mRNAの発現量とも良好な相関を示すとは言い難かったことより、体癌で特異的に発現する末端Fuc-の酵素学的なバックグラウンドとしては複数のα1,2FucTが関与する可能性、または、全く新たなFucTが癌特異的に発現する可能性が考えられた。
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